子どもの発達を豊かなものにするアプローチで、『絵本の読み聞かせ』ほど効果的なものはありません。
絵本の読み聞かせのよいところは、簡単で無理なくでき、親にとっても子どもにとっても、とても楽しいものだという事です。
子どもに向けて、ゆっくりと、心を込めて、絵本を読み聞かせる。
これだけで、子どもの言語機能や思考力が育ち、小学校以降の学力にもよい影響を与えることが多くの研究で明らかになっています。
この記事では『子ども分野の言語聴覚士』が、以下の内容について解説します。
家庭で、楽しくお子さんの力を伸ばしたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
- 国家資格:言語聴覚士(ST)免許保有
- 総合病院で働く子ども分野の言語聴覚士
- 幼児ことばの教室や通級指導教室の先生を対象とした勉強会の講師を務める
- 日本言語聴覚学会など、関連学会での発表経験多数
絵本の読み聞かせは『言葉の力』を育てる最高の時間
絵本の読み聞かせは、「親が文を朗読し、子どもが絵を見ながら話しを聞く」という独特なコミュニケーションスタイルをとっています。
このやり取りには、『言葉の力』を育てる多くの刺激が含まれています。
まずは、絵本の読み聞かせが『言葉の力』を育む理由を具体的にみていきましょう。
『共同注意+言葉かけ』が子どもの言語発達を促す
親と子どもが同じものに注目することを『共同注意』と呼びます。
共同注意が成立している状態で『言葉かけ』をすることで、「言葉と意味」が結びつき、子どもは言葉を覚えていきます。
読み聞かせの間は、絶えず『共同注意+言葉かけ』の状態といえます。
つまり、絵本の読み聞かせは、子どもが言葉を覚える理想的な時間なのです。
絵がイメージを補う
絵本には言葉に対応した絵が描かれているため、子どもは視覚的な手がかりを利用して言葉を学ぶことができます。
例えば、「鬼」は実在しませんが、その姿や行動をイメージできるのは絵本の効果といえるでしょう。
絵があることで、子どもはまだ知らない言葉を理解しやすくなり、自然と語彙を増やしていくことができるのです。
絵本には会話で使われない言葉が豊富にある
絵本には日常会話ではあまり使われない言葉や、詩的で豊かな表現がたくさん含まれています。
日常会話で使われる言葉は意外と限られているため、絵本を通じて新しい単語や表現を聞くことが、子どもの語彙力を大きく伸ばすきっかけになります。
絵本には正しい文法表現がある
絵本に使われる「書き言葉」は、日常会話で使われる「話し言葉」に比べて、より形式的で正確な文法が使われています。
また、普段の会話では助詞が省略されがちですが、絵本では助詞が正しく使われ、文法的に整った文章が書かれています。
- 話し言葉:おうち、かえろう
- 書き言葉:おうちに、かえりましょう
そのため、絵本を通して子どもは自然に正しい文法の基礎を身につけることができます。
このように、『絵本の読み聞かせ』は、言葉の力を育てるために非常に効果的な方法といえます。
言葉の力のうち、特に『語彙力』が育つよ!
絵本の読み聞かせがもたらす『言葉以外の』大切な効果
絵本の読み聞かせは『言葉の力』を育むだけでなく、他にもさまざまなよい効果があります。
ここでは、特に注目したい2つの効果を紹介します。
自己肯定感が高まる
絵本の読み聞かせは、言葉の力を育むだけでなく、自己肯定感を高める効果もあります。
絵本を通じて大人が丁寧に応じてくれるという体験の積み重ねは、子どもの心に自分が意味ある存在だという感情を育てていきます。
この感情を土台に、子どもは自分に自信を持ち、自己肯定感が高まっていきます。
親のストレスが軽減する
川島隆太監修の「本の読み方で学力は決まる」では、8週間にわたって読み聞かせを記録した結果、母親の子育てに関するストレスが軽減されたことが紹介されています。
具体的には、次のことが示されています。
- 「読み聞かせの時間」が増えるほど、「育児ストレス」が減少する。
- 子どもの機嫌の悪さや落ち着きのなさ、新しい刺激に慣れないことが原因で生じる、母親のストレスが低下する。
このように、読み聞かせは母親の育児ストレスを軽減する効果が確認されています。
読み聞かせは親にとってもよい効果があるよ!
絵本の読み聞かせは『小学校以降の学力によい影響』をもたらす
幼児期の絵本の読み聞かせが、小学校以降の学力に良い影響を与える可能性があります。
ここでは、その根拠となる2つの研究を紹介します。
幼児期に本を読んでもらった経験のある子は本が好きになる
「子ども読書活動推進に関する評価・分析事業報告」によると、小学校2年生を対象に行った調査で、以下のような結果が得られています。
- 「小学校入学前に本を読んでもらった」子どもの83.0%が「本を読むことが好き」と回答。
- 「読んでもらわなかった」子どもの54.1%が「本を読むことが好き」と回答。
この調査結果から、幼児期に本を読んでもらった経験のある子どもは、本が好きになる傾向が強いことがわかります。
読書が好きな子は学力が高い傾向がある
「読書活動と学力・学習状況調査の関係に関する調査研究」では、読書が好きな児童ほど学力が高いことが確認されています。
この傾向は、科目や学力層にかかわらず一貫して見られる結果です。
- 幼児期に本を読んでもらった経験のある子は本が好きになる
- 読書が好きな子は学力が高い傾向がある
この2つの研究結果から、幼児期に行われる絵本の読み聞かせが、小学校以降の学力向上に寄与する可能性が考えられます。
『絵本の読み聞かせ』のポイント
絵本の読み聞かせは、工夫によってさらに効果が高まります。
以下に、読み聞かせを効果的に行うためのポイントを3つ紹介します。
- 同じ絵本を繰り返し読むことで語彙力が高まる
- 『絵本の読み聞かせ』は静かな環境で行う
- 文字が読めるようになっても続ける
それぞれ解説していきます。
同じ絵本を繰り返し読むことで語彙力が高まる
同じ絵本を何度も繰り返し読むことは、子どもの語彙力を高める効果があります。
その理由は、繰り返し聞くことで子どもは絵本の内容に慣れ、言葉や話の細かい部分にも注意を向けられるようになるからです。
もし子どもが同じ本を繰り返し読んでもらいたがる場合は、ぜひ応じてあげてください。子どもの言葉の力を育む大切な時間になります。
『絵本の読み聞かせ』は静かな環境で行う
子どもの脳や聴覚は十分に発達をしていないため、騒音があるとしっかり聞き取れないことがあります。
特にテレビの音は、思っている以上に影響を与えます。絵本の読み聞かせは、できるだけ「静かな部屋」で行いましょう。
文字が読めるようになっても続けましょう
子どもが文字を読めるようになっても、読み聞かせはぜひ続けてください。
海外の研究では、8年生(中学2年生)までは「聞いて理解する力」が「読んで理解する力」を上回るため、読み聞かせを長く続けることが推奨されています。
また、物語やテーマについて話し合うことで、親子の対話が深まり、子どもの考えを聞くよい機会になります。
年齢が上がり、絵本よりも本を好む場合は「本」の読み聞かせでもいいね。
『絵本の読み聞かせ』でしない方がいいこと
ここでは「絵本の読み聞かせでしない方がいいこと」を解説します。
ただし、子どもの性格や考え方は異なるので、あくまで一般論としてお考え下さい。
親が答えを知っている質問はしない
絵本の内容について、親が答えを知っている質問をすると、子どもが答えられずに嫌な気持ちになることがあります。
質問される心配がない方が、子どもは安心して絵本を楽しむことができるでしょう。
一方で、子どもからの質問は満足するまで答えてあげてください。
子どもは心ゆくまで質問し、答えてもらうことでたくさんのことを学びます。そして、学ぶことは楽しいと感じます。
「もっと知りたい」「その理由を教えて欲しい」という意欲を伸ばすことが、のちの学習意欲を高めます。
言葉を教えようとしない
絵本の読み聞かせで無理に言葉を教え込もうとするのは避けましょう。
語彙力を高めることは大切ですが、それを目的にした教え込みは、子どもにとって逆効果です。
子どもは、親が意図的に教え込もうとしていることに気づき、楽しさが失われます。
重要なのは、『親子で絵本を楽しむこと』。その結果として、語彙力が自然に伸びるのです。
文字を教えようとしない
早くから文字を教えようとしても、子どもは本が好きにはなりません。
絵本で嫌な体験をすると、本を楽しむ気持ちが失われることがあります。
絵本が好きになれば、条件が整った時期に自然と文字を覚えていきます。本の面白さを伝えることがもっとも大切です。
絵本を使った「教え込み」はよくないよ。
絵本の読み聞かせのよくある疑問
絵本の読み聞かせに関するよくある疑問について、役立つヒントをまとめました。
読み聞かせをより楽しく、効果的にするためのポイントを紹介します。
- 読み聞かせの姿勢は?
-
細かいことは気にせずに、リラックスできる姿勢で読み聞かせを行いましょう。絵本を楽しむことが一番大切です。
- 子どもを膝に抱える
- 寝ころびながら
身体を近づけて、ふれあいの時間を持つことも、読み聞かせの大切な目的の1つです。
- 同じ絵本を読みたがるのですが
-
同じ絵本を繰り返し読んであげましょう。
上で紹介した通り、同じ本を何度も読むことは、子どもの言葉を育む効果があります。
子どもはお気に入りの場面やセリフを通して、登場人物の気持ちをイメージしたり、言葉のリズムを楽しんだりするのが好きです。
大人もお気に入りの音楽を繰り返し聴くように、子どもも絵本を何度も楽しみたいのです。
- 読み聞かせの途中でアドリブを入れる?
-
アドリブを入れても、入れなくてもかまいません。大切なのは「絵本を楽しむ」ことです。
アメリカでは、読み聞かせ中に積極的に言葉かけをすることが多いようです。
一方で、日本では、セリフやフレーズのリズムが大切にされるため、アドリブを入れずにそのまま読む傾向があります。
- いつから始める?
-
何カ月や何歳から始めるべきという決まりはありません。
絵本を楽しめるようになったときから始めるのが理想です。
目安としては、0歳8カ月頃から1分ほど絵に注意を向けられるようになり、0歳9カ月頃から見ることと聞くことを同時にできるようになります。
機会があれば試してみて、子どもが興味を示したら始めてみましょう。
絵本選びのヒント
本屋にはたくさんの絵本が並んでいて、どれがよいか迷うこともあるのではないでしょうか。
ここでは、絵本選びのポイントを3つ紹介します。
子どもの興味に合わせる
絵本を楽しむためには、子どもが興味を示す絵本を選ぶことが一番大切です。
動物、乗り物、冒険、自然など、子どもが夢中になれる内容を選ぶことで、絵本の時間がより楽しくなります。
興味に沿った本であれば、繰り返し読んでも飽きません。
年齢に合った内容
年齢に合った内容を選ぶことも重要です。
簡単すぎる内容だと飽きてしまい、難しすぎると理解できず楽しめません。
最近では、対象年齢の目安が記載されていることが多いので、これを参考にするのもよいでしょう。
発行部数を参考にする
発行部数は、その絵本が多くの家庭で親しまれているかどうかを示す一つの指標です。
ベストセラーの絵本は、多くの子どもたちに愛されてきた証拠でもあります。
ベストセラーの絵本が一覧になったwikipediaのページを貼っておきますので参考にしてください。
まとめ
絵本の読み聞かせは、子どもの言語機能や思考力を育てるだけでなく、自己肯定感を高め、親子の絆を深めます。
また、小学校以降の学力にもよい影響を与えることが知られています。
しかし、忘れてはいけないのは「子どもが絵本を楽しめること」。
子どもは自分から育つ力を持っています。周りの大人ができるのは、子どもの発達する力をめいっぱい発揮させるための環境を整えることです。
親子で一緒に絵本を楽しむことが、子どもの学びの土台を築くことに繋がります。
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