MENU
くろねこ
【言語聴覚士】
総合病院で働く子ども分野の言語聴覚士(小児ST)。
「ことばの発達」が専門ですが、身辺自立・運動発達の知識もあります。
「幼児ことばの教室」「通級指導教室」の先生を対象とした研修で講師もしています。

家庭で『言葉を育てる』ポイントを子ども分野の言語聴覚士が解説!

言葉は、親や兄弟・友達・園の先生など、身近な人との関わりの中で育まれていきます。

そのため、『言葉』を育てるためには、子どもが話したいと思える相手や、安心して話せる相手がいることがとても大切です。

特に、子どもと最も長い時間を過ごす親は、子どもの言葉の成長に大きな影響を与える存在といえるでしょう。

言葉は放っておいて、自然に身につくものではありません。

親がよい聞き手となり、子どもにとって話したくなる相手であることで、子どもの語彙力や表現力は自然と広がっていきます。

日常の会話や絵本の読み聞かせ、そして親子の遊びなどを工夫することで、幼児教室や専門家の介入よりも効果的に『言葉を育てる』ことができます。

この記事では、『家庭で言葉を育てる』ためのポイントを、ことばの発達の専門家:言語聴覚士が解説します。

この記事を書いた人

くろねこ

  • 国家資格:言語聴覚士(ST)免許保有
  • 総合病院で働く子ども分野の言語聴覚士
  • 幼児ことばの教室や通級指導教室の先生を対象とした勉強会の講師を務める
  • 日本言語聴覚学会など、関連学会での発表経験多数

お子さんの言語や遊びに関して本当に心配がある場合は、必ず専門の医師(小児科、耳鼻科、児童精神科など)に相談してください。

目次

言葉はどうやって育つ?

幼児期は『遊び』の中で学ぶ

はじめに、幼児期の『学び』の特徴を確認しておきましょう。

ここでいう『学び』は、言葉の力だけでなく、思考力や記憶、情緒や社会性なども含まれます。

幼児期の学びは、何かを「教えられる」ことではなく、日常生活の中で行われる「遊び」の中で自然に行われるものです。

特に、幼児期の前半(0歳~4歳)はこの傾向が顕著です。

子どもは自ら周囲の環境に興味を持ち、意欲的に関わることで『遊び』を生み出し、それが結果的として『学び』へと繋がります。

夢中になって遊ぶ中で、

  • 自分の考えを言葉で伝える
  • 相手の気持ちを理解する
  • 想像力を働かせて新しい遊びを考える

など、学びに必要なさまざまな経験を積み重ねていきます。

つまり、子どもが活発に遊びを展開していくことが、子どもの学びにつながり、その結果として子どもの生活が豊かなものになっていくのです。

言葉は周囲の人とのやり取りの中で育つ

大人が外国語を学ぶのとは異なり、子どもは日常生活で親との言葉のやり取りを通して、自然に言葉を獲得していきます。

まず、子どもを取り巻く『言葉にあふれた生活』があり、その中で親との『言葉を使ったコミュニケーション』が行われます。

こうした環境の中で、子どもは少しずつ言葉を覚え、使いこなせるようになります。

さらに、周囲の人々との関わりを通して、言葉を使ってお互いに伝え合う経験が重ねられることで、子どもは言葉の力を高めていくのです。

そのため、周囲の大人が子どもと積極的に関わり、豊かな言葉かけを行うことが、子どもの言葉の力を育む上で重要です。

言葉の発達は0歳から始まっている

多くのご両親は、子どもの『言葉』について考えるのは話しはじめてからでしょう。

しかし、実はまだ言葉を話さない乳児の頃から、言葉の基盤となる発達は始まっています。

親をはじめとする周りの人々が、乳児を『心を持つ存在』として扱い、表情や動きからその気持ちを読み取り、共感しながら寄り添う。

このような環境で、乳児は『通じ合っている』という喜びや安心感を体験します。

そして、この『通じ合っている』という感覚が、乳児にとってのコミュニケーションの基礎を作ります。

生後9〜10カ月頃になると、子どもに『三項関係』(子どもが他者と物を共有する関係)が形成され、指差しや視線のやり取りなど、言葉を使わない方法で『話題』を共有できるようになります。

大人が子どもの発する喃語に反応したり、オモチャの受け渡しなどモノをやり取りしたりすることで、子どもは順番を交代する『対話』の基本的なルールを学んでいきます。

このような『対話の基本的なルール』を基盤に、『象徴機能』の発達が加わり、物やイメージを別のモノ(象徴)で表す能力が育ってくると、子どもは言葉という象徴を使って話すようになります。

象徴とは

象徴とは、物や出来事を別のもの(言葉や記号)で表すこと。例えば、「りんご」という言葉は、実際の果物を指し示す象徴です。

言葉を育てることの重要性

言葉とは、私たちが思考や感情、情報を伝えるために使う音声や文字の集まりです。

コミュニケーション手段として『人の意図を理解し、相手に自分の意図を伝える』という役割を果たすだけではありません。

ここでは、言葉の発達により、子どもの中で育つ力について3つ紹介します。

言葉の発達で育つ力
  • 他者の視点を理解する力
  • 抽象的な概念を理解する力
  • 自分や相手の感情を理解する力

言葉の発達で育つ力①他者の視点を理解する力

言葉の発達を通じて、子どもは物事を他者の視点から理解できるようになります。

例えば、「あげる」「くれる」「もらう」や「行く」「来る」といった言葉を知ることで、行動を異なる立場から考える力が身につきます。

このようにして、他者の視点を理解し、より深く物事を捉えられるようになるのです。

言葉の発達で育つ力②抽象的な概念を理解する力

言葉を通じて、子どもは目に見えない抽象的な概念も理解できるようになります。

抽象的な言葉

例えば、「自由」「平和」「思いやり」など、直接目で観察できない『概念』についても、その言葉を知ることで理解できるようになっていきます。

数の概念

「いち」「に」「さん」といった数の言葉を知ることで、子どもは『数量感覚』を身につけていきます。

例えば、「98個のリンゴ」と「99個リンゴ」を見てどちらが多いか見て判断するのは難しいですが、数字を知ることで、そのわずかな違いを把握できるようになります。

言葉の発達で育つ力③自分や相手の感情を理解する力

「悲しい」「楽しい」「悔しい」などの言葉で感情を表現することで、子どもは自分や相手の感情をより正確に理解できるようになります。

感情を表す言葉を知ることで、他者の気持ちに共感する力が強化されます。

その結果、単に「やさしい気持ち」を持つだけでなく、その気持ちにふさわしい行動を取る力も育まれるのです。

言葉を育てる上での親の役割

「人と話すことや聞くことが楽しい」という、人と関わり合う力の育成が言葉を身につけるためには重要です。

子どもが自分の思いを言葉で表現したり、相手の話に耳を傾けようとしたりする態度を育むために、親は極めて大きな存在です。

子どもの言葉を育てる上で、親の役割はどのようなものがあるでしょうか。

親の役割として重要なポイントを3つ解説します。

言葉を育てる上での親の役割
  • よく子どもの話を聞く『聞き手』であること
  • 美しい言葉、豊かな言葉を使うモデルであること
  • 子どもの理解者であること

親の役割①子どもの話をよく聞く「聞き手」であること

子どもは、人に話したくなるような体験をし、それを自分なりの言葉で表現できた時、言葉を使って伝えようとする意欲が高まります。

その際、相手がうなずいたり、言葉で応答したりすることで、「自分の気持ちが伝わった」と感じると、言葉を通じてのコミュニケーションの楽しさを実感します。

こうした経験を重ねることで、子どもの言葉はさらに豊かに育っていきます。

親の役割②美しい言葉、豊かな言葉を使う「モデル」であること

親は、美しい言葉や豊かな表現のお手本となる役割を担っています。

親がよく使う単語やフレーズは、子どもも自然と話すようになります。

多くの研究で、親の話し方が子どもの話し方に大きく影響することが明らかになっています。

そのため、子どもの言葉を豊かにするために、親自身が言葉の感覚を磨き、高めていくことが重要です。

親の役割③子どもの理解者であること

親は、子どもの気持ちを理解し、信頼関係を築きながら、豊かな言葉で接することが大切です。

これは、もっとも長い時間を一緒に過ごす親だからこそできることであり、こうした親子の深いかかわりが、子どもの言葉の成長の基盤となります。

親が子どもを深く理解し共感することで、子どもの言葉の世界は広がり、自己表現の力も一層豊かになっていきます。

言葉が育つ環境

家庭で子どもの言葉を育むために、親はどのような環境を用意したらよいのでしょうか。

子どもの豊かな言葉の育ちにつながる『環境』について確認しておきましょう。

話題

言葉が育つ環境で大切にしたいのは、子どもが話したくなるような「話題」です。

日々の生活で感じた生き生きとした感情を、親と共有したいという気持ちや、一緒に経験した楽しい時間を振り返りたいという気持ちは、子どもの言葉の成長を大きく後押しします。

例えば、週末に誰とどこへ行ったのか、お母さんとどんな遊びをしたのか、お父さんがどんな面白い失敗をしたのか、そんな子どもが伝えたくなる『話題』があると、子どもは一層話したくなります。

毎日が特別な出来事である必要はありません。

子どもが主体的に取り組んだ、かけがえのない経験であれば、そのことについて熱心に話したいと思うものです。

そして、その話を親がしっかりと聞くことで、子どもはさらに話そうとするのです。

絵本

絵本は繰り返し見たり聞いたり読んだりすることで、語彙が豊かになります。

また、興味に即した絵本は、言葉のイメージが膨らみ、話すことや聞くこと、豊かな表現に貢献します。

4歳頃には、理解力や想像力が増し、思考力がついていきます。

さらに5歳頃になると、知的好奇心も強くなり、絵本の選択にも個性ができています。

『ストーリー絵本』、『知識絵本』、『言葉遊び絵本』など、豊富な種類を用意できると、お子さんの好奇心や成長に合わせて選ぶ楽しさが増えるでしょう。

多くの絵本を買いそろえるのが難しい場合は、図書館などを利用し、多くの絵本に触れる機会を作りましょう。

お手伝い

3歳を過ぎると、料理・掃除・洗濯などの『お手伝い』は、遊びと同じように『楽しい学びの場』になります。

お手伝いには多くの場合『手順』があり、それを子どもに教えることで自然と会話が生まれます。

このやりとりを通じて、親子の絆は深まり、子どもは達成感や自信を感じることができます。

また、親と一緒に何かを成し遂げる経験は、子どもにとって心理的な満足感や安心感をもたらします。

こうした日常の『お手伝い』を楽しんで行うことができれば、子ども言葉の力は高まっていくでしょう。

言語学習の6原則

言葉の力を育むヒントになる、『言語学習の6原則』を紹介します。

ここで紹介している「言語学習の6原則」は、CRNアジア子ども学研究ネットワーク第3回国際会議の基調講演⑤bを参考に、家庭での実践に役立つように追加の説明を加えています。本来の意味やエビデンスについては、リンク先の記事を確認してください。

言語学習の6原則
  • 子どもは耳にする機会が多い言葉を学ぶ
  • 子どもは興味のある物事に関する言葉を学ぶ
  • 双方向で反応的な環境が言葉の学習を促進する
  • 意味のある文脈で子どもはもっとも学ぶ
  • いろいろな言葉や表現を聞くことが大切
  • 語彙の発達と文法の発達は相互に関連し、同時に進行する

原則1:子どもは耳にする機会が多い言葉を学ぶ

子どもはよく聞く言葉を覚えます。

そのため親は、生活が豊かになる言葉を意識したいものです。

  • 挨拶の言葉:「おはようございます」「こんにちは」
  • 感謝の言葉:「ありがとう」「どういたしまして」
  • 人と関わる言葉:「一緒にやってみよう」「貸してくれる?」「教えて」

これらの言葉を日常の会話の中で何度も聞くことで、子どもは自然にその使い方を覚え、相手との関わり方や思いやりの気持ちを育むことができます。

子どもの言葉を育むポイント

  • 子どもと会話をする機会を積極的に作る。
  • 挨拶の言葉・感謝の言葉・人と関わる言葉など、子どもが話して欲しい言葉を会話の中でたくさん使用する。

原則2:子どもは興味のある物事に関する言葉を学ぶ

子どもは興味のあるモノについての言葉をよく覚えます。

「電車・働く車・アンパンマンなどのキャラクター」について、驚くほどの知識を披露してくれる子をよく経験します。

子どもが好きなものは『話題』になり、一緒に会話を楽しむことで、子どもの言葉の力は伸びていくでしょう。

子どもの言葉を育むポイント

  • 子どもの好きなモノについてたくさん話し合う。
  • 子どもの好きなモノについて、一緒に調べる。

原則3:双方向で反応的な環境が言葉の学習を促進する

子どもが言葉を学ぶには、一方的な言葉かけではなく、実際に会話をすることが大切です。

親からの問いかけに対して子どもが答えたり、子どもが興味を持ったことについて一緒に話したりする双方向のやり取りを通じて、子どもは言葉の使い方を自然に覚えていきます。

子どもの言葉を育むポイント

  • 質問する場合は『5往復の対話』が目標。
  • 子どもの質問にはしっかり答える。または一緒に考える。

原則4:意味のある文脈で子どもはもっとも学ぶ

子どもは日常生活の中で、実際にその言葉が使われる場面を経験することで、言葉の意味や使い方を学びます。

絵カードやフラッシュカードで言葉を詰め込むよりも、遊びなどを通じた意味のあるやり取りの中で学ぶほうが、より多くの語彙を覚えます。

日常の出来事や身の回りの物について話すことで、子どもは自然に言葉を覚え、使う力を育んでいきます。

子どもの言葉を育むポイント

  • 子どもが感じていることを、その場で言葉にして表現する。
  • 実際のモノを見たり触れたりしながら、その名前や特徴を話す。
  • 『ごっこ遊び』など、具体的なシチュエーションで言葉を使う遊びをする。

原則5:色々な言葉や表現を聞くことが大切

子どもが言葉を学ぶためには、さまざまな言葉や表現を聞くことが重要です。

まだ子どもが知らないような新しい言葉や言い回しを取り入れることで、子どもの語彙はさらに広がり、豊かな表現力を身につけることができます。

子どもの言葉を育むポイント

  • 生活の中で、意識的に新しい言葉を使う。
  • 同じ内容でも、いろいろな言い回しで話しかける。

原則6:語彙の発達と文法の発達は相互に関連し、同時に進行する

子どもが言葉を学ぶとき、語彙と文法は、別々に発達するのではなく、互いに影響を与えながら同時に成長していきます。

例えば、新しい言葉を覚えることで、その言葉を使うための文法のルールを自然に学ぶことができ、逆に文法の理解が進むことで、より複雑な語彙を使いこなせるようになります。

つまり、語彙と文法はお互いを支え合いながら、子どもの言語能力を発達させていくのです。

子どもの言葉を育むポイント

  • 絵本や物語で、少しだけ複雑な文や表現に触れる機会をつくる。
  • 子どもの言葉を繰り返しながら、さりげなく文法的に正しい形にして話しかける。

まとめ

幼児期は、子どもが最も多くのことを吸収し、言葉を身につけていく時期です。

この時期に、家庭での豊かな経験を通じて、子どもが人と言葉を交わす楽しさを十分に味わうことが、子どもの言葉の成長にとって何よりも大切です。

親が「よい聞き手」であり、「言葉のモデル」であり、「理解者」であることで、子どもは安心して自分の思いを伝えたり、他者の話に耳を傾けたりする力を育てることができます。

日常の中で、親や周囲の大人が子どもに対して豊かな言葉を使い、関わり合いを持つことで、子どもは自然とその言葉の世界を広げていきます。

最後に、言語学習の6原則で紹介した『子どもの言葉を育むポイント』をまとめておきます。

  • 子どもと会話をする機会を積極的に作る。
  • 挨拶の言葉、感謝の言葉、人と関わる言葉など、子どもが話して欲しい言葉を会話の中でたくさん使用する。
  • 子どもの好きなモノについてたくさん話し合う。
  • 子どもの好きなモノについて、一緒に調べる。
  • 質問する場合は『5往復の対話』が目標。
  • 子どもの質問にはしっかり答える。または一緒に考える。
  • 子どもが感じていることを、その場で言葉にして表現する。
  • 実際のモノを見たり触れたりしながら、その名前や特徴を話す。
  • 『ごっこ遊び』など、具体的なシチュエーションで言葉を使う遊びをする。
  • 生活の中で、意識的に新しい言葉を使う。
  • 同じ内容でも、いろいろな言い回しで話しかける。
  • 絵本や物語で、少しだけ複雑な文や表現に触れる機会をつくる。
  • 子どもの言葉を繰り返しながら、さりげなく文法的に正しい形にして話しかける。

コメント

コメントする

目次