言語聴覚士のコラム

【言語聴覚士が解説】幼児期の語彙力とは?言葉の数より大切な「意味を理解し、使う力」

黒猫

語彙力というと、「知っている言葉の数」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、本当の語彙力はそれだけではありません。

例えば「りんご」という言葉一つをとっても、りんごを見て名前がわかること、甘い果物だと知っていること、みかんやいちごとの違いがわかること、「昨日りんごを食べたよ」と自分で話せること—これらはすべて語彙力に関わる力です。

つまり、語彙力とは「言葉の意味を理解し、場面に応じて使える力」のことです。

幼児期は、遊びや生活、親子の会話を通して語彙が大きく育つ時期です。そして語彙力は会話だけでなく、絵本を楽しむ力や、ひらがなの読み書き、文章を理解する力、考える力にもつながっていきます。

この記事では、認知科学や言語発達の知見をもとに、語彙力とは何か、どのように育ち、家庭ではどのような関わりが大切なのかを、言語聴覚士の視点からわかりやすく解説します。

黒猫
黒猫
言語聴覚士
Profile
『子ども分野の言語聴覚士(小児ST)』として働いています。支援に関わる中で、「こんな教材があったらいいな」と感じたものを形にし、プリントを作成しています。

語彙力とは

「意味を理解し、使いこなす力」

語彙力とは、単に知っている言葉の数ではなく、言葉の意味を理解し、それを適切な場面で使える力です。例えば「大きい」と「広い」、「怒る」と「困る」のように、似た意味の言葉を状況に応じて使い分けることも語彙力の一つです。

幼児は「話せる言葉」が少なくても、「理解している言葉」はその何倍もあることが一般的です。そのため、「話せる言葉の数」だけで語彙力を判断することはできません。

言葉の発達をみるときは、「何語話せるか」だけでなく、「どのくらい理解しているか」「言葉を生活の中でどのように使っているか」も重要な視点です。

言葉は経験や知識と結び付きながら広がっていく

子どもは、単語を一つずつ覚えているわけではありません。例えば「犬」という言葉を覚えるときには、「四本足で歩く」「ワンワンと鳴く」「散歩をする」「猫とは違う」といった特徴や経験が少しずつ積み重なっていきます。

さらに、新しい言葉を覚えるたびに、すでに知っている言葉や経験とのつながりも増えていきます。このように、言葉は他の言葉や経験と関連付けながら理解され、少しずつ意味を広げていきます。

理解語彙と表出語彙

語彙には「理解語彙」と「表出語彙」の2種類があります。理解語彙とは聞いたり見たりして意味がわかる言葉、表出語彙とは自分で話したり書いたりして使える言葉のことです。

理解できる言葉の方が使える言葉よりもずっと多いのが一般的なので、「あまり話さないから語彙が少ない」と決めつけることはできません。子どもがどのくらい言葉を理解しているかにも目を向けることが大切です。

語彙が育つ仕組み

語彙は暗記によって身に付くものではなく、経験を通して意味を理解し、何度も使うことで育っていく力です。

体験と言葉を結び付けながら学ぶ

子どもは、実際の経験と言葉を結び付けることで理解を深めていきます。

例えば公園で初めてどんぐりを見つけた場面を想像してみてください。保護者が「丸くて茶色いね」「帽子みたいな形をしているね」と話しかけると、子どもは実物を見たり触ったりしながら「どんぐり」という言葉と実際の物を結び付けていきます。

さらに「秋になると落ちること」「いろいろな形があること」など、新しい経験を重ねるたびに、その言葉の意味が豊かになっていきます。

語彙を育てるために特別な場所へ出かける必要はありません。毎日の生活そのものが学びの場になります。

繰り返し聞き、使うことで語彙になる

一度聞いただけで言葉を完全に覚えられることはほとんどありません。同じ言葉をさまざまな場面で何度も聞き、自分でも使う経験を重ねることで、その言葉は少しずつ「自分の言葉」になっていきます。

例えば「ふわふわ」という言葉も、ぬいぐるみを触ったとき、パンを食べたとき、雪を見たとき、絵本を読んだときなど、いろいろな場面で耳にすることで意味が定着していきます。

最初は理解するだけだった言葉が、「くまさん、ふわふわ!」「このパン、ふわふわ!」と自分から使えるようになる—これが理解語彙から表出語彙へと育っていく過程です。

文脈から言葉の意味を推測する

幼児は、初めて聞く言葉でも、周りの状況や会話から意味を推測しています。例えば暑い日に「今日は蒸し暑いね」と言われても、最初はその意味がわからなくても、汗をかいていること、空気がじめじめしていること、保護者の表情などを手がかりに「なんだか暑くてベタベタする感じ」と少しずつ理解していきます。だからこそ、新しい言葉を教えるときは「これは○○だよ」と説明するだけでなく、実際の場面で自然に使うことが大切です。

幼児期の語彙力の発達

語彙の発達には大きな個人差があります。ここで紹介する内容はあくまで一般的な目安として参考にしてください。

1〜2歳頃|身近な人や物の名前が増える

最初は「ママ」「パパ」「わんわん」「ごはん」など、毎日目にする人や物の名前が中心です。この時期は「言葉には意味がある」ということを学び始める大切な段階でもあります。

「話せる言葉」よりも「理解している言葉」に注目することが大切で、例えば「ボール持ってきて」と言うとボールを持ってこられるようであれば、「ボール」という言葉は理解できていると考えられます。

2〜3歳頃|動詞や二語文が増える

「食べる」「飲む」「行く」といった動詞が増え始め、「ママ、きた」「ジュース、ちょうだい」のような二語文・三語文で気持ちや出来事を伝えられるようになります。

「おおきい」「あつい」「いたい」など、様子や感覚を表す言葉も少しずつ増え、「言葉を使って伝える楽しさ」を感じられるようになる時期です。

3〜4歳頃|言葉の意味が広がる

色、大きい・小さい、上・下・前・後ろ、同じ・違うなど、物の特徴や位置・関係を表す言葉を理解できるようになります。「どうして?」「なんで?」という質問が増えるのもこの頃です。保護者にとっては大変に感じることもありますが、このやり取り一つひとつが語彙や思考力を育てています。

4〜6歳頃|気持ちや時間を表す言葉が増える

「うれしい」「くやしい」「はずかしい」といった感情を表す言葉や、「昨日」「明日」「あとで」など時間を表す言葉も理解できるようになります。「○○だから」と理由を説明できる場面も増え、語彙が豊かになることで友達との遊びや集団生活もスムーズになっていきます。

語彙は興味や体験と深く結び付いているため、乗り物が好きな子どもは「新幹線」「連結」、生き物が好きな子どもは「ダンゴムシ」「幼虫」など、大人も驚くような言葉を知っていることがあります。「同じ年齢の子と比べる」のではなく、お子さん自身の言葉の広がりや変化に目を向けることが大切です。

語彙力が育つと伸びる力

気持ちや考えを伝えやすくなる

語彙が増えると、「かなしい」「くやしい」「びっくりした」など、自分の気持ちを言葉で伝えられるようになります。「楽しかった」だけでなく「すべり台が速くて楽しかった」「お友達と一緒に遊べてうれしかった」のように、出来事を具体的に話せるようにもなり、親子や友達とのコミュニケーションが深まっていきます。

読み書きや読解力の土台になる

「りんご」という文字を読めても、「りんご」の意味を知らなければ本当に読めたとはいえません。文字と意味が結び付いて初めて、言葉として理解できます。また、文章を読むときにも知らない言葉が多いと内容の理解が難しくなります。

語彙力は「文字を読む力」だけでなく「読んで理解する力」の土台でもあり、音韻意識やワーキングメモリとも互いに関わりながら発達していきます。

あわせて読みたい
音韻意識とは?言語聴覚士が読み書きとの関係や家庭でできる遊びを解説
音韻意識とは?言語聴覚士が読み書きとの関係や家庭でできる遊びを解説
あわせて読みたい
【言語聴覚士が解説】ことばの発達を支える力「ワーキングメモリ」とは?
【言語聴覚士が解説】ことばの発達を支える力「ワーキングメモリ」とは?

考える力が育つ

「りんごとみかんはどこが違うかな?」と考えるときも、頭の中では言葉を使って比べたり整理したりしています。

語彙が増えることで、仲間ごとに分ける、共通点や違いを見つける、理由を考える、順序立てて説明するといったことがしやすくなります。語彙が豊かになるほど、自分の考えを整理したり、新しいことを理解したりしやすくなります。

家庭で語彙力を育てるために大切なこと

語彙力はドリルや暗記だけで身に付くものではありません。特別な教材を用意しなくても、親子の関わり方を少し意識するだけで、子どもが言葉に触れる機会はたくさん増やせます。

さまざまな体験をする

  • 公園で虫を探す
  • スーパーで野菜を見る
  • 一緒に料理をする
  • 雨の日に外の様子を観察する

こうした体験は、子どもにとって「言葉」と「意味」を結び付ける貴重な機会になります。毎日の生活そのものが、語彙を育てる学びの場です。

「一緒に楽しむ会話」を大切にする

「これ何?」「何色?」と尋ねるだけでは、会話が広がりにくいことがあります。それよりも「今日は風が気持ちいいね」「このパン、ふわふわしているね」など、保護者自身が感じたことを言葉にすることで、子どもは自然に新しい表現に触れられます。

子どもが話した言葉に「そうだね」「○○だったね」とやり取りを続けることも、語彙力を育てる大切な時間です。「教える会話」よりも「一緒に楽しむ会話」の方が、子どもは言葉を自然に吸収しやすくなります。

子どもの言葉を少し広げて返す

子どもが話した言葉に、少しだけ情報を付け加えて返すことを「拡張」といいます。

  • 子ども:「ワンワン!」→ 保護者:「白いワンワンが走っているね。」
  • 子ども:「バス!」→ 保護者:「大きな青いバスだね。」

長く説明しなくても、子どもが話した内容を受け止めながら、少しだけ語彙を広げて返すことがポイントです。

読み聞かせは「話すこと」を大切にする

読み聞かせは語彙力を育てる良い機会ですが、大切なのは最後まで上手に読むことではありません。「うさぎさん、どんな気持ちかな?」「この前、公園で見たね」など、絵本の内容について親子で話し合うことで、言葉と経験が結び付きやすくなります。子どもが興味をもった場面で立ち止まり、自由に会話を楽しむことも大切です。

まとめ

語彙力とは「知っている言葉の数」ではありません。言葉の意味を理解し、経験と結び付け、自分の考えや気持ちを表現できる力です。

語彙力を育てるために最も大切なのは、言葉を教え込むことではなく、毎日の生活の中で子どもと一緒に経験し、その経験を言葉で共有することです。

散歩で見つけた花について話すこと。夕食の味や香りを一緒に言葉にすること。絵本を読みながら「どう思う?」と会話を楽しむこと。そんな何気ない日々の積み重ねが、子どもの語彙を豊かに育てていきます。

参考書籍
  • 今井むつみ『言葉をおぼえるしくみ―母語から外国語まで―』筑摩書房
  • 今井むつみ『学びとは何か〈探究人〉になるために』岩波書店
  • 今井むつみ『ことばと思考』岩波新書
  • 『標準言語聴覚障害学 言語発達障害学 第2版』医学書院
ABOUT ME
黒猫
黒猫
言語聴覚士
『子ども分野の言語聴覚士(小児ST)』として働いています。支援に関わる中で、「こんな教材があったらいいな」と感じたものを形にし、プリントを作成しています。
記事URLをコピーしました